今日はビリージョエルのベイビーグランドです。
ビリー・ジョエルはこの曲をたった一晩で書き上げたそうです。曲のモデルはもちろんデュエットの相手でもあるレイ・チャールズです。ピアノマンはみんなレイに大きな影響を受けているわけで、ビリーは娘をアレクサ・レイと名付けるほどのレイファンです。
共演のために作ったこの曲ですが、もろにレイ・チャールズ節。そしてビリーは、この歌をレイっぽく歌っているんですね。ビリーがレイのために書いたピアノマンの人生を綴った歌と言っていいと思います。
絞り出すようなヴォーカルには、歩んできた人生を振り返って、辛苦とノスタルジーが滲んでいると思います。
今回は歌詞を訳していて、ベイビーグランドが実際のグランドピアノと思えたり、女性をピアノに例えているのではないと思えたり、何度も言ったり来たりしました。最終的にはやっぱりこれはグランドピアノだという結論に至ったのですが、それくらいビリーは自分の職業とその「道具と書いて相棒と読む」みたいなピアノを愛しているのだなと思いました。
同じくピアノマンである先輩レイチャールズとの掛け合いがなんともしびれちゃいます。最後の部分では、ビリーがこれからのことを憂い気味に綴る一方で、レイがこれまでの人生を振り返って満足しているかのようです。悲しい歌をロマンティックな曲にまとめあげていると思います。
歌の中で、「名声を得たときもあったけれど、それがずっと続くわけじゃなかった」とか「大金は稼ぐそばから使い果たした」とかボクの場合は大金ってほどではないですけれど、稼ぐそばから使い果たしたなんてなんだかまるで自分の人生とすごく重なって聞こえてなりません。「いろいろな寄り道をしてきた」、「身体は傷だらけ」、「そして今、故郷に帰ってきた」
やっぱボクじゃん….
商売道具のピアノ「だけ」が恋人だというわけで、それは即ちビリーが自分のプロとしての誇りとこれまでの人生には何の後悔もないのだと胸を張って叫んでいるようにボクには思えます。大人だから大きな声を出すわけではなく、薄暗いバーの片隅でボソっと。
30年務めた会社を辞めて地元に戻って来てからはこの曲を聴くと、それまでとは違って聴くたびになんだか自分の人生を思い浮かべる大好きな曲です。
ちなみに、ボクが転勤するときにいつも連れて行った相棒は、「ひだまりの民」です。太陽電池で動く、頭がゆらゆら揺れるあれです。特にオレンジのやつはまるで「大丈夫、大丈夫」って言ってくれているようで。 転勤するとしばらくはホテル暮らしになるんですけど、新しい国の新しい環境、新しい職場での緊張をほぐしてくれる、欠かせない相棒でした。ニューヨークにもサンフランシスコにも香港にもバンコクにもシンガポールにも連れて行きました。このひだまりの民、前橋に帰って来てしばらくして動かなくなっちゃったんです。もう引っ越しはしないから一人で大丈夫だろ?と言われてるみたいでした。